6ページ目/全7ページ 「うわ〜寒いな。何だこりゃ?」 「宍戸サン、12月ですから。陽が落ちたら寒いのは当たり前ですよ」 突風に文句を言っている宍戸に、鳳が苦笑しながら声をかけた。 短い冬の陽はすでに落ち切り、辺りは空と陸がわからないほど、真っ暗になっていた。 あの日と良く似ていると鳳は思っていた。 鳳が宍戸に告白をした、あの関東大会の日も、星明かり一つ無い真っ暗な夜だった。 でも、こんな浮き上がるような楽しい気分では無かったと思う。 鳳は告白した時の自分を思い出してみた。 その時は、全国大会に行けない悲しさや、情けない気分に浸っていたので、 とてもみっともない顔をしていた気がする。 自分はまだ来年があるが、宍戸は全て終わってしまったのだ。 そう思うと、涙が止まらなかった。 もしかすると鼻まで垂れていたかもしれない。 (考えたら、ひどい告白だよな)) (宍戸サン、良く黙って聞いていてくれたよな) (もしかすると、神様が、あの日の仕切り直しをするように仕向けているのかもしれない) 鳳は十字架を身につけてはいるが、それは身内に熱心なキリスト教徒がいるからだった。 鳳は、ここ数年、神に祈った事は無かった。 しかし、ネックレスを右手にしっかり握り込むと、胸に押し当てて祈りを捧げた。 (俺の思いが宍戸サンに伝わっていて欲しい) 神への祈りは、本当はそういうモノでは無いのだけれど。 今の鳳は、神でも藁でも何でも良いからすがりたい。 そんな気持ちだった。 帰宅の道すがら、腹を決めた鳳は、宍戸にまず今晩の予定を聞いてみようと思った。 「宍戸サン、これから何か予定はありますか?」 「え? ああ、クリスマスイブだよな〜確か。オレは何もね〜よ。 親も仕事でいないし、後は飯食って寝るだけかな?」 鳳は驚いてしまった。 宍戸は今日が何の日かしっかり自覚しているらしい。 確かに行き帰りで通る商店街には、クリスマスツリーや派手な豆球で飾られたショーウインドウや ケーキ売りの呼び声が氾濫していたので、どんな鈍い人間でも今日が何の日か気づくとは思うが。 「お前こそ、パーティとかあるんじゃね〜のか? 跡部の家みたいに。 お前の家もそ〜だろ? 今日誘って迷惑じゃ無かったか?」 「え? ウチは父親の仕事関係のパーティですから。 俺は関係無いです。 今晩は家族でご飯食べるだけで暇でしたよ。 誘ってもらって嬉しかったです」 「フ〜ン、そうか?」 どうやら宍戸は、鳳の都合を考えて遠慮していた様子だった。 鳳は自分の思い込みに気がついて、かなり慌ててしまった。 「す、すいません。宍戸サン! 俺、宍戸サンに誕生会を断られて、宍戸サンはそういうの嫌いなのかな〜なんて 勝手に思いこんじゃったんです。今日、誘わなくって本当にすみません!」 「まあ〜良いんじゃ無いのか? 会って一緒にテニスができて、オレはスゲェ〜楽しかったよ」 鳳を見上げて優しく笑う宍戸は、何だか本当に可愛らしかった。 先輩に対して、そういう事を思うのは、かなり失礼では無いかと思うけれど。 鳳は、無性に宍戸を抱きしめたい衝動に駆られる事がある。 「宍戸サン、もし良かったら俺の家に来ませんか? 母が料理作って待ってます。 たぶん食べきれないと思うので。一緒にどうですか?」 「あ〜マジで? それ、助かるよ。オレも腹減ってるから。 帰りにコンビ二で買出しかな〜と思ってたんだよな」 鳳は、心の中で喜びの舞を踊ってしまった。 今日なら、神様の存在を信じても良い、そんな気分だった。 (宍戸サンと一緒にクリスマスディナーかぁ) (シャンパンを勧めてみようかな?) (酔った宍戸サンって可愛い〜だろうなぁ) (それで、夜遅くまで一緒に騒いで?) (もう終電も無くなるし、そのまま泊まるように誘ったり?) (今晩、客間は父の客で埋まるし、お、俺の部屋しかね無いのか??) (宍戸サンと俺が……同じベッドで朝まで過ごす?!) (どうしよう〜。うわ〜だんだん緊張してきた) 一人、妄想しては赤くなったり、青くなったりしている鳳を見て、宍戸は怪訝な顔をしていた。 |
![]() ![]() 5ページ目へ戻る 7ページ目へ進む 小説目次へ戻る |